Linked Dataで社会と研究をつなぐ

(本稿は武田が人工知能学会誌2013年1月号に「編集委員会 今年の抱負」に書いたものです。)

2012年は日本でオープンデータ、オープンガバメントの大きな動きがあった。内閣官房の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)では,7月に電子行政オープンデータ戦略[1]を発表し、政府としてオープンデータを推進することを決めた。それに基づき、総務省ではオープンデータ流通推進コンソーシアム[2]を立ち上げ、産官学の参加者を集めて、日本でのオープンデータ普及の方法を探っている。経済産業省はIT融合フォーラム/公共データワーキンググループ[3]を立ち上げ、経済産業省のデータをはじめとする政府データのオープン化の方策を模索している。2013年はその具体的な活動が目に見え、日本におけるオープンガバメント元年になるかもしれない。

米国では2009年1月にオバマ大統領がオープンガバメントに関する覚書を発表している。米国の動きが2-3年して日本に伝わるのはいつもののことであるので、ある意味驚くべきことではないのだけど、2012年に大きな動きがあったのは、それだけではないと思っている。私は2011年以前からオープンデータに関して説明することが多かったが、なかなか理解してもらえないことが多かった。なぜ情報やデータを公開しなければならないの?と必ず問われたものである。

やはり東日本大震災が大きな契機になったと思っている。一言でいえば、震災において情報やデータの重要性を再認識したということだろう。典型的な例としては、東京電力の電力消費データや放射線測定データがあるが、それだけではない。政府や自治体、公的機関のもつ様々なデータ・情報は社会生活に欠くことのできないものであることを、データの提供する側も利用する側もともに認識したということであろう。これは大きな社会の変化であり、社会自体のオープン化に向けての第一歩である。

さて、そもそも私がなんでこんなことを書いていると言えば、オープンデータにおいてLinked Data(あるいはLinked Open Data, LOD)は重要な技術基盤であり、Linked DataはセマンティックWebの展開であるからである。

セマンティックWebは次世代Webと標榜しながら、なかなか普及することはなかった。研究の方向性としては間違っていないが、やはり適用技術としての複雑さの問題があったとことと、なりよりもニーズとのマッチングに問題があった。そのギャップをつないだのがLinked  Dataである。従来のセマンティックWebはいかに概念の世界を構築するかに研究の焦点をあてていたが、Linked Dataは概念(クラス)の問題をとりあえずおいておき、そのインスタンスであるデータの記述としてセマンティックWebの技術を使うというものである。

別の視点で見ると、Linked Dataは文書の中心の現在のWebのデータ版である。Webでリンクでつないだ文書を公開すると同じように、リンクでつながったデータを公開するものである。いわば、これまでのWebが“文書のWeb”だったの対して、“データのWeb”をつくろうというものである。

これが先のオープンデータ、オープンガバメントの動きとマッチして、オープンデータ、オープンガバメントの有力技術基盤として採用されつつある。実際、米国政府や英国政府のオープンガバメントサイトではLinked Dataがトップページで紹介され、データを公開されている。

これは一研究者としてセマンティックWeb分野で携わってきた私としては大変歓迎すべきことである。しかし、単に社会が受けいれてくれてよかったねと、受動的な立場でいるのはもったいし、またそうあるべきではないだろう。そこで周囲の理解ある人たちと一緒となって、非営利活動法人(NPO)をつくることにした。このNPOはNIIの研究者とこれまでのLinked Dataの研究活動の一環として協力していただいた人を集めてつくったものである。NPOの目的はLinked Dataを社会で普及させることであり、そのために広報から技術相談、技術支援にいたるまでのことを行うことにしている。NPOは2011年に企画していろいろの準備ののち2012年の8月に認定されたものであるが、すでにさまざまなコンタクトを受けており、予想以上の期待に驚いている。

Linked Dataはデータとデータを“つなぐ”技術であるが、それは今、社会と研究を“つなぐ”技術となっている。Webは、情報技術を社会に開放して、市民一人一人が情報技術をつかえる社会を作りあげた。いわばWebは情報技術と社会を“つなぐ”技術であった。Linked Dataはその第二波である。ただし、今度は文書でなくてデータそのものが対象である。

Linked Dataは、AIの研究者には、もちろん新しい技術チャレンジを提供するし、社会には新しい技術的ソルーションを提供するチャレンジである。私にとってのチャレンジは、技術を通じて研究の世界と社会をつなぐこと自体である。Linked Dataの発展のための源泉いわばソースは、単に技術的蓄積ではなく、我々の社会自体でもある。社会からのニーズあるいはもっと言えば社会をこうしたいというアイデアが、次の発展の方向を決めるだろう。

私としては、研究と社会をつなぐ活動に参画することで、ささやかながら、次の発展へ貢献できればと思っている。



[1] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/denshigyousei.html

[2] http://www.opendata.gr.jp/

[3] http://www.meti.go.jp/press/2012/08/20120827006/20120827006.html

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